闘神伝記外伝 ~闘神のつぶやき~ 8
2006.05.23 |Category …片隅の小説
緑深き森の彼方へ 紫のしずくを摘みに
蒼く澄む湖のほとり せせらぎの調べにのせて
風の声とともにうたえ 輝ける命抱いて
……あっ、失礼しました……聞いてました?
これは子守唄です、昔々に聞いたきり、記憶の中に埋もれていたはずなのに、ふと口をついて出てしまいました。
それほど音痴ではないと思いますが……お許しくださいね。
それにしてもよく覚えてましたね、我ながら関心します。小さい頃の記憶は、そう簡単に消えないものなのですね。
蒼く澄む湖のほとり せせらぎの調べにのせて
風の声とともにうたえ 輝ける命抱いて
……あっ、失礼しました……聞いてました?
これは子守唄です、昔々に聞いたきり、記憶の中に埋もれていたはずなのに、ふと口をついて出てしまいました。
それほど音痴ではないと思いますが……お許しくださいね。
それにしてもよく覚えてましたね、我ながら関心します。小さい頃の記憶は、そう簡単に消えないものなのですね。
▽一応続いてますぜ。
・第八話「バートラスタ攻略 思惑」
私は衛兵隊に所属になることが決まった時、双剣術が殺戮の剣術であることを戦地で実際に試したい、という黒い思いを抱いていたということをお話しましたね。ゼラン軍との小競り合いが続いた一ヶ月の間、私は自分の選んだ道が、想像以上の力を持っていたことを思い知ることになりました。師に鍛え上げられた一年と、自ら修行し続けたそれまでの時間が、歴史の狭間に消えようとしていた双剣術を再び甦らせることができたのです。衛兵隊の面々も、訓練では決して見ることのない私の太刀筋を目の当たりにして、肝を潰した様子でしたよ。
向かい来る敵の急所を瞬時に判断し、剣を振りぬく一瞬でその首を跳ね飛ばす。一撃必殺、比類なき強さを誇る双剣術最大の特徴ですが、なぜ「一撃」にこだわるのか、分かりますか?
私はこの前、自らの冷酷さや敵への同情、それら一切を排除し、目の前の戦いを瞬きの間に決着させることに集中するのが双剣術だと言いました。神は冷酷なだけではなく、慈悲の心も持っています。その慈悲こそが「一撃」、苦しまぬよう一瞬で葬り去ることが「闘神の慈悲」そのものなのです。たとえ敵でも、悪戯に急所を外され、死ぬこともできずにもがき苦しむのは酷というもの。痛みすら感じさせずに「一撃」で倒すことが、彼等への最大の慈悲なのですよ。
……とはいえ、私も戦地に来るまでは、この「慈悲の概念」について疑問を持っていました。瞬時に命を奪うことが「慈悲」とは、とても思えなかったから……
でも、それは違いました。
傷を負って呻き声を上げる敵の姿は、冥界の亡者と同じくらい痛々しかった……足を切り捨てられたゼラン兵の一人は、自ら剣で首を斬り自害しました。傷を負ってなお生き恥を曝すことは、剣士として耐え難い屈辱なのです。そこで初めて、私は「闘神の慈悲」を心の底から理解することができたのでした。
さて、長期化の様相を見せていた対ゼラン戦で、悪名高い無法地帯バートラスタの話が何度となく交わされました。ゼラン軍上陸の拠点となっているバートラスタを攻略できれば、戦況は一気に変わりますからね。
そして私も、かつて修行していたバートラスタでの、懐かしくも厳しかった修行の日々を思い出しました。そしてその時エダル師に、ジャスターニ一族の者がバートラスタで暮らしていることを聞いたのです。師は、その親族の方の話をするときとても幸せそうでした。そして同時に……哀しげでもありました。
そのお話については、また後ほど……
本来兵士というのは余程でない限り単独行動はしません。でもそれを知っていて、あえて私は一人でバートラスタへ行きたい旨をノーラン補佐官にお話ししました。許されればそれでよし、許可が下りなければ、私は無断で隊を抜け出してでも、バートラスタへ行こうと考えていましたからね。
正直な話ですが、一人の方が動きやすいので……
あ、協調性がないわけではないのですよ、ただ危険な場所へ赴くわけですから、そういう無茶な兵士は私だけでいいと思って。……本当ですよ。
結局、ノーラン補佐官とパッセ補佐官のお二人とともに、七日間をかけてバートラスタへ行くことになりました。こう言うと二人の補佐官に怒られるかもしれませんが、お二人がぶつかり合って始める口喧嘩はとても面白かったですよ。まるで小さな子同士の喧嘩を見ているみたいで……
ちょっと再現してみましょうか。
「クリオ、おまえみたいな口達者なチビは見たことがない!」
「俺だって、おまえみたいな底意地の悪いウドの大木にはお目にかかったことはない!」
「何だと!他所の家の畑から果物を盗んで食う奴よりはましだ!」
「わっ……ワイリー!それは内緒だって言ったろ!おまえだって一緒に食ったくせに!」
「食ってない!断じて食ってないぞ!」
「いいや食った、間違いなく食った!三つもだぞ、俺だって一つしか食わなかったのに!」
……そこで、私が咳払いをすると、お二人とも一瞬で我に返る、というわけですね。
こうしたやり取りをしながらバートラスタへ到着しましたが、そこで私とパッセ補佐官は初めて真正面から衝突しました。私とパッセ補佐官は、七日の間ろくに口もきかずに旅してきましたが、その七日間は私と彼の距離を少しだけ縮めてくれたのだと思います。だからこそ、本音でぶつかり合うことができたのでしょう。
パッセ補佐官の拳が飛んできた時、私は一瞬、拳を受けるべきか避けるべきか悩んだのですよ。私が一発もらえば、パッセ補佐官もすっきりするかと思って。でもやはり避けてしまいました……もし目をやられたらバートラスタで戦えませんからね。
三人で向かったバートラスタは、私が十五の時に見たそのままの様子で、私たちを睨み据えていました……
私は衛兵隊に所属になることが決まった時、双剣術が殺戮の剣術であることを戦地で実際に試したい、という黒い思いを抱いていたということをお話しましたね。ゼラン軍との小競り合いが続いた一ヶ月の間、私は自分の選んだ道が、想像以上の力を持っていたことを思い知ることになりました。師に鍛え上げられた一年と、自ら修行し続けたそれまでの時間が、歴史の狭間に消えようとしていた双剣術を再び甦らせることができたのです。衛兵隊の面々も、訓練では決して見ることのない私の太刀筋を目の当たりにして、肝を潰した様子でしたよ。
向かい来る敵の急所を瞬時に判断し、剣を振りぬく一瞬でその首を跳ね飛ばす。一撃必殺、比類なき強さを誇る双剣術最大の特徴ですが、なぜ「一撃」にこだわるのか、分かりますか?
私はこの前、自らの冷酷さや敵への同情、それら一切を排除し、目の前の戦いを瞬きの間に決着させることに集中するのが双剣術だと言いました。神は冷酷なだけではなく、慈悲の心も持っています。その慈悲こそが「一撃」、苦しまぬよう一瞬で葬り去ることが「闘神の慈悲」そのものなのです。たとえ敵でも、悪戯に急所を外され、死ぬこともできずにもがき苦しむのは酷というもの。痛みすら感じさせずに「一撃」で倒すことが、彼等への最大の慈悲なのですよ。
……とはいえ、私も戦地に来るまでは、この「慈悲の概念」について疑問を持っていました。瞬時に命を奪うことが「慈悲」とは、とても思えなかったから……
でも、それは違いました。
傷を負って呻き声を上げる敵の姿は、冥界の亡者と同じくらい痛々しかった……足を切り捨てられたゼラン兵の一人は、自ら剣で首を斬り自害しました。傷を負ってなお生き恥を曝すことは、剣士として耐え難い屈辱なのです。そこで初めて、私は「闘神の慈悲」を心の底から理解することができたのでした。
さて、長期化の様相を見せていた対ゼラン戦で、悪名高い無法地帯バートラスタの話が何度となく交わされました。ゼラン軍上陸の拠点となっているバートラスタを攻略できれば、戦況は一気に変わりますからね。
そして私も、かつて修行していたバートラスタでの、懐かしくも厳しかった修行の日々を思い出しました。そしてその時エダル師に、ジャスターニ一族の者がバートラスタで暮らしていることを聞いたのです。師は、その親族の方の話をするときとても幸せそうでした。そして同時に……哀しげでもありました。
そのお話については、また後ほど……
本来兵士というのは余程でない限り単独行動はしません。でもそれを知っていて、あえて私は一人でバートラスタへ行きたい旨をノーラン補佐官にお話ししました。許されればそれでよし、許可が下りなければ、私は無断で隊を抜け出してでも、バートラスタへ行こうと考えていましたからね。
正直な話ですが、一人の方が動きやすいので……
あ、協調性がないわけではないのですよ、ただ危険な場所へ赴くわけですから、そういう無茶な兵士は私だけでいいと思って。……本当ですよ。
結局、ノーラン補佐官とパッセ補佐官のお二人とともに、七日間をかけてバートラスタへ行くことになりました。こう言うと二人の補佐官に怒られるかもしれませんが、お二人がぶつかり合って始める口喧嘩はとても面白かったですよ。まるで小さな子同士の喧嘩を見ているみたいで……
ちょっと再現してみましょうか。
「クリオ、おまえみたいな口達者なチビは見たことがない!」
「俺だって、おまえみたいな底意地の悪いウドの大木にはお目にかかったことはない!」
「何だと!他所の家の畑から果物を盗んで食う奴よりはましだ!」
「わっ……ワイリー!それは内緒だって言ったろ!おまえだって一緒に食ったくせに!」
「食ってない!断じて食ってないぞ!」
「いいや食った、間違いなく食った!三つもだぞ、俺だって一つしか食わなかったのに!」
……そこで、私が咳払いをすると、お二人とも一瞬で我に返る、というわけですね。
こうしたやり取りをしながらバートラスタへ到着しましたが、そこで私とパッセ補佐官は初めて真正面から衝突しました。私とパッセ補佐官は、七日の間ろくに口もきかずに旅してきましたが、その七日間は私と彼の距離を少しだけ縮めてくれたのだと思います。だからこそ、本音でぶつかり合うことができたのでしょう。
パッセ補佐官の拳が飛んできた時、私は一瞬、拳を受けるべきか避けるべきか悩んだのですよ。私が一発もらえば、パッセ補佐官もすっきりするかと思って。でもやはり避けてしまいました……もし目をやられたらバートラスタで戦えませんからね。
三人で向かったバートラスタは、私が十五の時に見たそのままの様子で、私たちを睨み据えていました……
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