闘神伝記外伝 ~闘神のつぶやき~ 7
2006.05.22 |Category …片隅の小説
ようこそ、こんにちは。
といっても、夜も昼もない世界ですから……その点だけは困りものですね。
今日も、あの音が聞こえます。静かな、鐘の音のような音。だんだんと、少しずつですが近付いてきている様子ですね。ここにたどり着こうとしているのでしょうか……
とりあえず、魔界の者の仕業でないことは確かですね。
え?
分かりますよ……伊達に数百年も魂のままふらついていませんよ。ふふ。
といっても、夜も昼もない世界ですから……その点だけは困りものですね。
今日も、あの音が聞こえます。静かな、鐘の音のような音。だんだんと、少しずつですが近付いてきている様子ですね。ここにたどり着こうとしているのでしょうか……
とりあえず、魔界の者の仕業でないことは確かですね。
え?
分かりますよ……伊達に数百年も魂のままふらついていませんよ。ふふ。
▽一応続いてますぜ。
・第七話「最前線へ」
過去三回、大陸を覆い尽くした戦火の渦が、その当時再び燃え盛ろうとしていました。いくら兵士であっても、戦いを好んで喜び勇む者は誰もいません。衛兵隊をどれほどの規模で派兵するか会議が繰り返されていたその時、いつもは騒々しい衛兵隊の面々も、皆一様に静まり返っていました。
私は当時、同期のブリックスと親しくしていました。彼は兵士にしておくのが気の毒なほど優しい男でしたが、剣の腕前は申し分なかったですね。彼の実家はサンテルマイン城下町で剣術の訓練場を営んでいて、彼はそこの独り息子だったんです。なるほど、いい太刀筋な訳ですよね。
彼と話している最中、割り込んで暴言を吐いたオール先輩は、訓練の最中も始終小声で悪態をついているような、悪く言えばちょっといい加減な方でした。私のことを見かけるたびに、皮肉めいたことをぶつぶつとつぶやいていましたね。
あの時、私が盾を持たぬ双剣術者であることを、オール先輩は揶揄しました。
……本当は、こらえるつもりだったんです、いつものように。
双剣術は非情な戦の中にあって機能する剣術。血みどろの凄惨な戦いの中、自身の精神が崩壊しないために、極限まで感情を制御できなければならない。私が、何があっても微笑みを崩さずにいたのは、この厳しい決め事を守るための修行の一つだったのです。
でも、その時は……ダメでした。
初めて戦に向かうかもしれない緊張感と、双剣術に対する私の思いを踏み躙られたことへの怒りが、私の感情の歯車をひとつ跳ね飛ばしたようでした。修行が足りませんね。
ブリックスを驚かせてしまいましたが、私は自分の心を再認識し、また反省することを学びました。
そうしてサンテルマインから北へ進軍していく最中、ゼラン軍の先行部隊と鉢合わせになり、小さな村は一気に戦場と化しました。
隊長の号令とともに、私は自分の中の「闘神」を呼び起こします。その鍵がまさに、あの簡易兜なのです。
あの兜で目を覆った瞬間、人としてではなく、敵を倒すためだけの非情な「闘神」となり、一撃必殺の刃でその首を跳ね飛ばす……自らの冷酷さや敵への同情、それら一切を排除し、目の前の戦いを瞬きの間に決着させることに集中するのです。
だからこそ、比類なき強さと謳われるのですよ……人として戦っているのではないのですから。
しかしそうまでしても、戦場と化した村は……救われませんでした。
戦の悲惨さが胸に打ち込んだ杭は、怒りと哀しみの棘に覆われています。
そこにいた第三中隊の一人一人の胸に、その杭が刺さりました。
戦がもたらすものは何もないということを、私たちは村ひとつを犠牲にして思い知ったのです。あの時の空しさは、たとえようもありません……
何としてでも、戦を終わらせなければ。
双剣術が生まれたのも、双剣術の祖であるグラヴァス様とルーディ様が、同じように思ったからなのだろうと、感じました……
過去三回、大陸を覆い尽くした戦火の渦が、その当時再び燃え盛ろうとしていました。いくら兵士であっても、戦いを好んで喜び勇む者は誰もいません。衛兵隊をどれほどの規模で派兵するか会議が繰り返されていたその時、いつもは騒々しい衛兵隊の面々も、皆一様に静まり返っていました。
私は当時、同期のブリックスと親しくしていました。彼は兵士にしておくのが気の毒なほど優しい男でしたが、剣の腕前は申し分なかったですね。彼の実家はサンテルマイン城下町で剣術の訓練場を営んでいて、彼はそこの独り息子だったんです。なるほど、いい太刀筋な訳ですよね。
彼と話している最中、割り込んで暴言を吐いたオール先輩は、訓練の最中も始終小声で悪態をついているような、悪く言えばちょっといい加減な方でした。私のことを見かけるたびに、皮肉めいたことをぶつぶつとつぶやいていましたね。
あの時、私が盾を持たぬ双剣術者であることを、オール先輩は揶揄しました。
……本当は、こらえるつもりだったんです、いつものように。
双剣術は非情な戦の中にあって機能する剣術。血みどろの凄惨な戦いの中、自身の精神が崩壊しないために、極限まで感情を制御できなければならない。私が、何があっても微笑みを崩さずにいたのは、この厳しい決め事を守るための修行の一つだったのです。
でも、その時は……ダメでした。
初めて戦に向かうかもしれない緊張感と、双剣術に対する私の思いを踏み躙られたことへの怒りが、私の感情の歯車をひとつ跳ね飛ばしたようでした。修行が足りませんね。
ブリックスを驚かせてしまいましたが、私は自分の心を再認識し、また反省することを学びました。
そうしてサンテルマインから北へ進軍していく最中、ゼラン軍の先行部隊と鉢合わせになり、小さな村は一気に戦場と化しました。
隊長の号令とともに、私は自分の中の「闘神」を呼び起こします。その鍵がまさに、あの簡易兜なのです。
あの兜で目を覆った瞬間、人としてではなく、敵を倒すためだけの非情な「闘神」となり、一撃必殺の刃でその首を跳ね飛ばす……自らの冷酷さや敵への同情、それら一切を排除し、目の前の戦いを瞬きの間に決着させることに集中するのです。
だからこそ、比類なき強さと謳われるのですよ……人として戦っているのではないのですから。
しかしそうまでしても、戦場と化した村は……救われませんでした。
戦の悲惨さが胸に打ち込んだ杭は、怒りと哀しみの棘に覆われています。
そこにいた第三中隊の一人一人の胸に、その杭が刺さりました。
戦がもたらすものは何もないということを、私たちは村ひとつを犠牲にして思い知ったのです。あの時の空しさは、たとえようもありません……
何としてでも、戦を終わらせなければ。
双剣術が生まれたのも、双剣術の祖であるグラヴァス様とルーディ様が、同じように思ったからなのだろうと、感じました……
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