闘神伝記外伝 ~闘神のつぶやき~ 3
2006.05.16 |Category …片隅の小説
この前の音は教会の鐘の音かと思ったのですが、どうも違うようですね。あれからずっと、遠くで静かに鳴り続けているように感じます……よからぬことの前兆でないといいのですが。
こうしてここにいると、次々と昔のことが思い浮かんできて、今更ながらとても懐かしいんです。
……過去を振り返るなんて、私も年でしょうか。
姿は二十歳前後ですが、実際にはもう数百年の間現世を彷徨っていますからね。ははは。
こうしてここにいると、次々と昔のことが思い浮かんできて、今更ながらとても懐かしいんです。
……過去を振り返るなんて、私も年でしょうか。
姿は二十歳前後ですが、実際にはもう数百年の間現世を彷徨っていますからね。ははは。
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闘神伝記外伝 ~闘神のつぶやき~ 2
2006.05.15 |Category …片隅の小説
命ある時期を駆け抜けて二十八年、死して彷徨った数百年……
その長い年月の中で、ひょっとしたら今のこの時がいちばん、平穏なのかもしれません。私がこうしてここにいる限り、魔界からの侵略はないのですからね。
また来て下さったのですね……ありがとう。
私は元々、あまりお喋りが得意な方ではないのですが、独りの時間が長すぎるとちょっと持て余しますから……耳障りでなかったら、また少しだけお付き合いいただけますか?
その長い年月の中で、ひょっとしたら今のこの時がいちばん、平穏なのかもしれません。私がこうしてここにいる限り、魔界からの侵略はないのですからね。
また来て下さったのですね……ありがとう。
私は元々、あまりお喋りが得意な方ではないのですが、独りの時間が長すぎるとちょっと持て余しますから……耳障りでなかったら、また少しだけお付き合いいただけますか?
闘神伝記外伝 ~闘神のつぶやき~ 1
2006.05.14 |Category …片隅の小説
静かですね……
暗闇の中こうして佇むようになって、もうどれくらい経ったでしょうか。
いえ、時間の経過は私には意味のないことでした。私はもう、亡者ですからね。
ジギダ殿は今頃、どうされているでしょうか。
偉大なる魔術師シェルストーンの力となり、また未来ある若者の力となった結果としてこの暗闇があるのなら、私は己のさだめを静かに受け止めたいと思うのです。
ところで……
魔界の扉を塞ぐため魂の鍵となった私のことを、貴方は見えているご様子ですね。私からは何も見えませんが、気配だけは分かりますよ。
独りきりというのも味気ないものですし、少しだけお付き合い願えませんか。
ああ、申し遅れました、私の名はトキーエ。
最期の双剣術者、トキーエ・ギアムデンです。
暗闇の中こうして佇むようになって、もうどれくらい経ったでしょうか。
いえ、時間の経過は私には意味のないことでした。私はもう、亡者ですからね。
ジギダ殿は今頃、どうされているでしょうか。
偉大なる魔術師シェルストーンの力となり、また未来ある若者の力となった結果としてこの暗闇があるのなら、私は己のさだめを静かに受け止めたいと思うのです。
ところで……
魔界の扉を塞ぐため魂の鍵となった私のことを、貴方は見えているご様子ですね。私からは何も見えませんが、気配だけは分かりますよ。
独りきりというのも味気ないものですし、少しだけお付き合い願えませんか。
ああ、申し遅れました、私の名はトキーエ。
最期の双剣術者、トキーエ・ギアムデンです。
無題
2006.03.14 |Category …片隅の小説
「明日早いんでしょう。いいの?こんな時間まで・・・」
「いいよ。どうせ眠れやしないんだから。」
長く真っ直ぐな、月の光のように淡く輝く髪の少女は、淋しそうににこりと微笑んだ。その隣に寄り添うようにして座っている少年は、月明かりすらも避けていくほどの、漆黒の衣服を身に着けていた。
「綺麗ね、お月様。」
「ああ、綺麗だ。」
二人は同時に、月を見上げながら手をつないでいた。それまで手を触れたことがなかった二人は、初めて感じる相手の暖かさに胸が締め付けられた。
「・・・あったかいのね、手・・・」
「意外だったか?・・・あったかいんだよ。」
少年は、長い爪で少女を傷つけぬよう、労わりながらその白い手を撫でた。少女は月を見つめたまま、その優しい仕草に目を細める。
「ずっと、こうしていたい。」
「・・・俺もだよ。」
「どうして、明日がくるのかしら。」
「どうして、なんだろうな。」
少年は静かにそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。少女もまたその後に続いて立ち上がり、二人は向かい合った。月明かりに照らされた少女の目に光る涙を、少年はそっと指で拭う。
「もうすぐ夜明けだ。行かなきゃ・・・」
「・・・そうね。」
小高い丘の上、見上げる空が白み始めた。
同時に、彼方の空や山々に、無数に蠢く異形の魔物たちがあふれ出す。そして丘を臨む都市の城砦に、数多の兵士たちが続々と配備され始める。
少年と少女は静かに一歩ずつ離れると、哀しげな目で見つめ合った。
「さようなら、魔界の王子様。」
「さようなら、城塞都市の聖女様。」
夜明けとともに、戦いの火蓋が切って落とされる。
少年は、微笑んでつぶやいた。
「この命ある限り、おまえを想い続ける。俺の心は、おまえのものだ。」
少年の黒い翼が大きく空に広がった。少女もうなずいて答える。
「私もよ。この命ある限り、ずっとあなたを想い続けるわ・・・」
黒く大きな翼を羽ばたかせた少年が彼方へ消え去るまで、少女はずっと丘に立ち尽くし、その姿を見守っていた。握り締めた手に残る、少年の暖かさを胸に刻みつけながら。
・・・夜が、明ける。
「いいよ。どうせ眠れやしないんだから。」
長く真っ直ぐな、月の光のように淡く輝く髪の少女は、淋しそうににこりと微笑んだ。その隣に寄り添うようにして座っている少年は、月明かりすらも避けていくほどの、漆黒の衣服を身に着けていた。
「綺麗ね、お月様。」
「ああ、綺麗だ。」
二人は同時に、月を見上げながら手をつないでいた。それまで手を触れたことがなかった二人は、初めて感じる相手の暖かさに胸が締め付けられた。
「・・・あったかいのね、手・・・」
「意外だったか?・・・あったかいんだよ。」
少年は、長い爪で少女を傷つけぬよう、労わりながらその白い手を撫でた。少女は月を見つめたまま、その優しい仕草に目を細める。
「ずっと、こうしていたい。」
「・・・俺もだよ。」
「どうして、明日がくるのかしら。」
「どうして、なんだろうな。」
少年は静かにそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。少女もまたその後に続いて立ち上がり、二人は向かい合った。月明かりに照らされた少女の目に光る涙を、少年はそっと指で拭う。
「もうすぐ夜明けだ。行かなきゃ・・・」
「・・・そうね。」
小高い丘の上、見上げる空が白み始めた。
同時に、彼方の空や山々に、無数に蠢く異形の魔物たちがあふれ出す。そして丘を臨む都市の城砦に、数多の兵士たちが続々と配備され始める。
少年と少女は静かに一歩ずつ離れると、哀しげな目で見つめ合った。
「さようなら、魔界の王子様。」
「さようなら、城塞都市の聖女様。」
夜明けとともに、戦いの火蓋が切って落とされる。
少年は、微笑んでつぶやいた。
「この命ある限り、おまえを想い続ける。俺の心は、おまえのものだ。」
少年の黒い翼が大きく空に広がった。少女もうなずいて答える。
「私もよ。この命ある限り、ずっとあなたを想い続けるわ・・・」
黒く大きな翼を羽ばたかせた少年が彼方へ消え去るまで、少女はずっと丘に立ち尽くし、その姿を見守っていた。握り締めた手に残る、少年の暖かさを胸に刻みつけながら。
・・・夜が、明ける。
闇人
2006.02.26 |Category …片隅の小説
真夜中の裏路地で、女の背後に音もなく忍び寄る俺は、その首を細身のダガーで一気にかき斬る。
途方もない勢いで噴出する黒い血しぶき。身体のどこにこんな大量の血が入っているのかと思うほど、尽きることなくあふれ出てくる濁流。
悲鳴も上げずに事切れる女たちの目は、いつも同じ。光を失った虚ろなまなざしのまま、冷たく白い肌を闇に浮かべて横たわる。
血の匂いを胸いっぱいに吸い込んでから、俺はその場を立ち去る。ダガーについた血は、歩きながら丹念に、ゆっくりと、舐め取る。それが俺に与えられた唯一の、命の糧。刃に染み込んだ命の雫しか口にすることを許されない、闇人の宿命。
刃を舐める俺の舌は、いつも傷だらけだ。
人を斬らねば生きられない俺の心もまた……傷だらけだ……
***********
空しさ全開。ネガティブな気分の方に捧げます。なんちて。
途方もない勢いで噴出する黒い血しぶき。身体のどこにこんな大量の血が入っているのかと思うほど、尽きることなくあふれ出てくる濁流。
悲鳴も上げずに事切れる女たちの目は、いつも同じ。光を失った虚ろなまなざしのまま、冷たく白い肌を闇に浮かべて横たわる。
血の匂いを胸いっぱいに吸い込んでから、俺はその場を立ち去る。ダガーについた血は、歩きながら丹念に、ゆっくりと、舐め取る。それが俺に与えられた唯一の、命の糧。刃に染み込んだ命の雫しか口にすることを許されない、闇人の宿命。
刃を舐める俺の舌は、いつも傷だらけだ。
人を斬らねば生きられない俺の心もまた……傷だらけだ……
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空しさ全開。ネガティブな気分の方に捧げます。なんちて。