無題
2006.03.14 |Category …片隅の小説
「明日早いんでしょう。いいの?こんな時間まで・・・」
「いいよ。どうせ眠れやしないんだから。」
長く真っ直ぐな、月の光のように淡く輝く髪の少女は、淋しそうににこりと微笑んだ。その隣に寄り添うようにして座っている少年は、月明かりすらも避けていくほどの、漆黒の衣服を身に着けていた。
「綺麗ね、お月様。」
「ああ、綺麗だ。」
二人は同時に、月を見上げながら手をつないでいた。それまで手を触れたことがなかった二人は、初めて感じる相手の暖かさに胸が締め付けられた。
「・・・あったかいのね、手・・・」
「意外だったか?・・・あったかいんだよ。」
少年は、長い爪で少女を傷つけぬよう、労わりながらその白い手を撫でた。少女は月を見つめたまま、その優しい仕草に目を細める。
「ずっと、こうしていたい。」
「・・・俺もだよ。」
「どうして、明日がくるのかしら。」
「どうして、なんだろうな。」
少年は静かにそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。少女もまたその後に続いて立ち上がり、二人は向かい合った。月明かりに照らされた少女の目に光る涙を、少年はそっと指で拭う。
「もうすぐ夜明けだ。行かなきゃ・・・」
「・・・そうね。」
小高い丘の上、見上げる空が白み始めた。
同時に、彼方の空や山々に、無数に蠢く異形の魔物たちがあふれ出す。そして丘を臨む都市の城砦に、数多の兵士たちが続々と配備され始める。
少年と少女は静かに一歩ずつ離れると、哀しげな目で見つめ合った。
「さようなら、魔界の王子様。」
「さようなら、城塞都市の聖女様。」
夜明けとともに、戦いの火蓋が切って落とされる。
少年は、微笑んでつぶやいた。
「この命ある限り、おまえを想い続ける。俺の心は、おまえのものだ。」
少年の黒い翼が大きく空に広がった。少女もうなずいて答える。
「私もよ。この命ある限り、ずっとあなたを想い続けるわ・・・」
黒く大きな翼を羽ばたかせた少年が彼方へ消え去るまで、少女はずっと丘に立ち尽くし、その姿を見守っていた。握り締めた手に残る、少年の暖かさを胸に刻みつけながら。
・・・夜が、明ける。
「いいよ。どうせ眠れやしないんだから。」
長く真っ直ぐな、月の光のように淡く輝く髪の少女は、淋しそうににこりと微笑んだ。その隣に寄り添うようにして座っている少年は、月明かりすらも避けていくほどの、漆黒の衣服を身に着けていた。
「綺麗ね、お月様。」
「ああ、綺麗だ。」
二人は同時に、月を見上げながら手をつないでいた。それまで手を触れたことがなかった二人は、初めて感じる相手の暖かさに胸が締め付けられた。
「・・・あったかいのね、手・・・」
「意外だったか?・・・あったかいんだよ。」
少年は、長い爪で少女を傷つけぬよう、労わりながらその白い手を撫でた。少女は月を見つめたまま、その優しい仕草に目を細める。
「ずっと、こうしていたい。」
「・・・俺もだよ。」
「どうして、明日がくるのかしら。」
「どうして、なんだろうな。」
少年は静かにそう言うと、ゆっくりと立ち上がる。少女もまたその後に続いて立ち上がり、二人は向かい合った。月明かりに照らされた少女の目に光る涙を、少年はそっと指で拭う。
「もうすぐ夜明けだ。行かなきゃ・・・」
「・・・そうね。」
小高い丘の上、見上げる空が白み始めた。
同時に、彼方の空や山々に、無数に蠢く異形の魔物たちがあふれ出す。そして丘を臨む都市の城砦に、数多の兵士たちが続々と配備され始める。
少年と少女は静かに一歩ずつ離れると、哀しげな目で見つめ合った。
「さようなら、魔界の王子様。」
「さようなら、城塞都市の聖女様。」
夜明けとともに、戦いの火蓋が切って落とされる。
少年は、微笑んでつぶやいた。
「この命ある限り、おまえを想い続ける。俺の心は、おまえのものだ。」
少年の黒い翼が大きく空に広がった。少女もうなずいて答える。
「私もよ。この命ある限り、ずっとあなたを想い続けるわ・・・」
黒く大きな翼を羽ばたかせた少年が彼方へ消え去るまで、少女はずっと丘に立ち尽くし、その姿を見守っていた。握り締めた手に残る、少年の暖かさを胸に刻みつけながら。
・・・夜が、明ける。
PR
●Thanks Comments
●この記事にコメントする
●この記事へのトラックバック
TrackbackURL: