闘神伝記外伝 ~闘神のつぶやき~ 10
2006.06.02 |Category …片隅の小説
ようこそ、いつもありがとうございます。
貴方のおかげで、この静かな暗闇の世界を有意義に過ごすことができて嬉しいです。独り言をぶつぶつ言っても誰にも咎められませんけど、やっぱりこうして誰かに聞いてもらえる、というのはありがたいですから。
相変わらず貴方の姿は私には見えませんけど、こうして足しげくここに来てくださるのですから、お優しい方なんですよね。
それとも、かつての知り合いの方でしょうか?
そんなわけはないですね、亡者の世界は冥府にあり、普通はそこから脱け出せないはずですから……というよりも、脱け出すことを忘れるほどの安らぎがあると言われているんですよ。
まあ、私は冥府には行っていませんので、あくまで噂ですけどね。
貴方のおかげで、この静かな暗闇の世界を有意義に過ごすことができて嬉しいです。独り言をぶつぶつ言っても誰にも咎められませんけど、やっぱりこうして誰かに聞いてもらえる、というのはありがたいですから。
相変わらず貴方の姿は私には見えませんけど、こうして足しげくここに来てくださるのですから、お優しい方なんですよね。
それとも、かつての知り合いの方でしょうか?
そんなわけはないですね、亡者の世界は冥府にあり、普通はそこから脱け出せないはずですから……というよりも、脱け出すことを忘れるほどの安らぎがあると言われているんですよ。
まあ、私は冥府には行っていませんので、あくまで噂ですけどね。
▽一応続いてますぜ
第10話「バートラスタ攻略 双剣術者ハトリック」
師の親族が住むというファーマレイの家を探しながら、私たちはバートラスタを歩き回りましたが、その時に私たちを見咎め難癖をつけてくる輩の多さに、さすがの補佐官たちも呆れていました。スリや乞食の多さにも驚いていたようですね。彼らは余所者の匂いを巧みに嗅ぎ付け、懐の隙をうかがっていますから、どこを歩くにしても油断は禁物です。
でも街の中心部より港側の地区は、そこまで荒っぽい場所ではありません。裕福な家が多いために「用心棒」も多く、主の機嫌を損ねぬよう、乞食やごろつきは有無を言わさず追い立てられるからです。用心棒を気取るからには、やはりそれなりの腕がありますから、彼らに逆らうのは得策でないことを知っている街人たちは、その地域には滅多に近寄らないんですよ。
そういう地域の一角に、ファーマレイの家は静かにたたずんでいました。
玄関の表札にファーマレイの文字を見たとき、私は思わず声を上げてしまいましたが、それくらい嬉しかったのですよ。
失われたファーマレイ流の、その親族が住んでいた場所。そしてそこを守っているジャスターニ流の親族。古から続いている絆の証しを、この目で確認することができたのですから。双剣術の苦難の歴史は、ジャスターニとファーマレイの絆の歴史でもあるのです。
ハトリック・ジャスターニさんは、我が師エダル・ジャスターニの従兄弟。そして、ジャスターニの血筋を持つ最後のひとり。禿げ上がった頭ながら、双剣術者の証しである後ろの長い髪は豊かで、しかも丁寧に梳かれていて美しかったことを覚えています。従兄弟なだけあって、その表情に我が師の面影が色濃く浮かんでいて……とても懐かしく、そして……哀しかった。
双剣術には、教える者、教わる者の不動の掟があります。
継承者は常に一人でなければならないこと。
この掟が意味するものを、二人の補佐官殿はどう思ったでしょうか。
また後ほど、詳しくお話します……
さて、当時のバートラスタの主、ロンバルティ三兄妹については、私たちは漠然とした知識しか持っていませんでした。謎めいた長兄のジャナッタ、剣豪と名高い次兄のジャラフ、残忍な妹ジャスリー。人売りの女性が話してくれたことと合わせても、その情報は少なすぎました。でも、何を相手にしても互角に渡り合う自信は持っていましたので、私はハトリックさんの提案を冷静に聞くことができました。
次期主の座を狙うアルベルトさんに、ロンバルティ三兄妹を始末するという「お土産」をちらつかせ、「取引」を持ちかけろ……至極明解な、それでいて難儀な提案。
二人の補佐官殿は真っ向から、ハトリックさんの言葉に反発しました。始末、という言葉が相当衝撃的だったのですね。無理からぬことです、お二人は街の流儀を知らないのですから。
しかしハトリックさんは、そんなお二人をやんわりと一蹴しました。
「・・・戦場でなら人殺しを正当化できるという、あなた方のそういう考えは、我等平民にはまことに解せぬものじゃ。」
これ以上ないくらいの正論です。
ノーラン補佐官もパッセ補佐官も、その言葉に胸を抉られたことでしょう。私もそうです。
街では許されない殺人という行為は、戦場では勲章になる。その矛盾さに誰もが気づいていながら、どうすることもできない。それが、戦争なのですから。
私はその後、二人の補佐官殿を置いて「取引」に向かいましたが、後日その時のことをノーラン補佐官からこう言われましたよ。
「ワイリーはハトリック氏に、双剣術の修行について熱心に聞いていたよ。ハトリック氏は多くを語らなかったが、それでもワイリーには新鮮な驚きだったんだろう。上官にしか相槌を打たないあいつが、まるで首振り人形みたいに何度もうなずいてたからな」
その表現がおかしくて、私は思わず吹き出してしまいました。
認めてもらえるというのは、嬉しいものです。急な階段を上がるようにゆっくりでしたけど、確実にパッセ補佐官の心は私と双剣術に、歩み寄って下さっていたんですね。
師の親族が住むというファーマレイの家を探しながら、私たちはバートラスタを歩き回りましたが、その時に私たちを見咎め難癖をつけてくる輩の多さに、さすがの補佐官たちも呆れていました。スリや乞食の多さにも驚いていたようですね。彼らは余所者の匂いを巧みに嗅ぎ付け、懐の隙をうかがっていますから、どこを歩くにしても油断は禁物です。
でも街の中心部より港側の地区は、そこまで荒っぽい場所ではありません。裕福な家が多いために「用心棒」も多く、主の機嫌を損ねぬよう、乞食やごろつきは有無を言わさず追い立てられるからです。用心棒を気取るからには、やはりそれなりの腕がありますから、彼らに逆らうのは得策でないことを知っている街人たちは、その地域には滅多に近寄らないんですよ。
そういう地域の一角に、ファーマレイの家は静かにたたずんでいました。
玄関の表札にファーマレイの文字を見たとき、私は思わず声を上げてしまいましたが、それくらい嬉しかったのですよ。
失われたファーマレイ流の、その親族が住んでいた場所。そしてそこを守っているジャスターニ流の親族。古から続いている絆の証しを、この目で確認することができたのですから。双剣術の苦難の歴史は、ジャスターニとファーマレイの絆の歴史でもあるのです。
ハトリック・ジャスターニさんは、我が師エダル・ジャスターニの従兄弟。そして、ジャスターニの血筋を持つ最後のひとり。禿げ上がった頭ながら、双剣術者の証しである後ろの長い髪は豊かで、しかも丁寧に梳かれていて美しかったことを覚えています。従兄弟なだけあって、その表情に我が師の面影が色濃く浮かんでいて……とても懐かしく、そして……哀しかった。
双剣術には、教える者、教わる者の不動の掟があります。
継承者は常に一人でなければならないこと。
この掟が意味するものを、二人の補佐官殿はどう思ったでしょうか。
また後ほど、詳しくお話します……
さて、当時のバートラスタの主、ロンバルティ三兄妹については、私たちは漠然とした知識しか持っていませんでした。謎めいた長兄のジャナッタ、剣豪と名高い次兄のジャラフ、残忍な妹ジャスリー。人売りの女性が話してくれたことと合わせても、その情報は少なすぎました。でも、何を相手にしても互角に渡り合う自信は持っていましたので、私はハトリックさんの提案を冷静に聞くことができました。
次期主の座を狙うアルベルトさんに、ロンバルティ三兄妹を始末するという「お土産」をちらつかせ、「取引」を持ちかけろ……至極明解な、それでいて難儀な提案。
二人の補佐官殿は真っ向から、ハトリックさんの言葉に反発しました。始末、という言葉が相当衝撃的だったのですね。無理からぬことです、お二人は街の流儀を知らないのですから。
しかしハトリックさんは、そんなお二人をやんわりと一蹴しました。
「・・・戦場でなら人殺しを正当化できるという、あなた方のそういう考えは、我等平民にはまことに解せぬものじゃ。」
これ以上ないくらいの正論です。
ノーラン補佐官もパッセ補佐官も、その言葉に胸を抉られたことでしょう。私もそうです。
街では許されない殺人という行為は、戦場では勲章になる。その矛盾さに誰もが気づいていながら、どうすることもできない。それが、戦争なのですから。
私はその後、二人の補佐官殿を置いて「取引」に向かいましたが、後日その時のことをノーラン補佐官からこう言われましたよ。
「ワイリーはハトリック氏に、双剣術の修行について熱心に聞いていたよ。ハトリック氏は多くを語らなかったが、それでもワイリーには新鮮な驚きだったんだろう。上官にしか相槌を打たないあいつが、まるで首振り人形みたいに何度もうなずいてたからな」
その表現がおかしくて、私は思わず吹き出してしまいました。
認めてもらえるというのは、嬉しいものです。急な階段を上がるようにゆっくりでしたけど、確実にパッセ補佐官の心は私と双剣術に、歩み寄って下さっていたんですね。
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